この記事のポイント
- この話が関係するのは、特養・老健・介護医療院・ショートステイで食費・居住費の軽減(補足給付)を受ける方だけ
- 家賃収入は「所得」として数えられ、住民税が課税になると補足給付の対象から外れる
- 年金が少なく特養で軽減を受けている場合、家賃の額によっては差し引きマイナスになることもある
- 売却すると代金が「預貯金」として数えられ、別の要件で対象外になりやすい
- 判断は「対象か確認 → 差し引きを計算 → 窓口で確認」の3ステップで
施設の種類と費用を整理した記事で、特養の食費・居住費には、所得の低い方の負担を軽くする「補足給付」という制度があることをご紹介しました。
ここで気になるのが、「実家を貸して家賃収入が入ったら、その軽減はどうなるのか」という点です。結論からお伝えすると、条件によっては軽減が受けられなくなり、家賃収入の多くが相殺されてしまうことがあります。この記事では、どんな方が影響を受けるのか、どのくらいの差になるのかを、公的な基準額をもとに整理します。
まず確認:この話が関係するのは、どんな方?
補足給付の影響を受けるのは、次の2つの条件にどちらも当てはまる方だけです。
- 入居先(入居予定先)が、特養・老健・介護医療院のいずれか、またはショートステイを利用している
- 親御さまが住民税非課税で、補足給付を受けている(または受けられる見込みがある)
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、補足給付の対象外です。また、親御さまがもともと住民税を課税されている場合も、補足給付は受けられないため、実家を貸しても軽減が減ることはありません。これらに当てはまる方は、この記事の内容は気にしなくて大丈夫です。
補足給付のしくみをおさらい
特養などの食費・居住費には、国が定める標準額(基準費用額)があります。補足給付は、所得や預貯金が一定以下の方について、自己負担に上限(負担限度額)を設け、標準額との差額を介護保険から施設に支払う仕組みです。
対象になるかどうかと、どの段階になるかは、主に次の3点で判定されます。
- 本人と世帯全員(別世帯の配偶者を含む)が住民税非課税であること
- 「年金収入+その他の所得」の合計額(段階の区分に使われます)
- 預貯金等の額(段階ごとに上限があります)
なお、預貯金等には現金・有価証券・投資信託なども含まれますが、自宅などの不動産は含まれません。この点は、後ほど「売る場合」との違いで大切になります。
家賃収入が入ると、何が起きるのか
実家を貸して得た家賃は、そのまま所得になるわけではありません。家賃から、管理委託料・固定資産税・修繕費などの必要経費を差し引いた額が「不動産所得」になり、年金の所得と合算されます。
住民税が非課税になるかどうかは、この合算した所得で判定されます。65歳以上・単身の方の場合、年金収入だけなら年155万円以下(所得にすると45万円以下)がおおよその目安です。家賃収入が加わってこの線を超えると住民税が課税になり、その結果、補足給付の対象から外れます。
非課税の基準額は、お住まいの市区町村によってこれより低い場合があります。また、家賃収入が補足給付の判定に反映されるのは、原則として貸し始めた翌年の8月以降です。
計算例:年金が月10万円のお母さまの場合
具体的な数字でイメージしてみます。以下はすべて説明のための仮定です。
- お母さまは一人暮らし、年金収入は年120万円(月10万円)、預貯金は550万円以下
- このままなら住民税は非課税で、補足給付は「第3段階①」
- 入居先は特養
- 実家の必要経費は、家賃の25%と仮定
家賃は立地・広さ・築年数によって大きく変わるため、月5万円・7万円・9万円の3パターンで比べます。参考までに、千葉県の民営借家(木造)の1か月あたり平均家賃は約5.6万円です(令和5年住宅・土地統計調査)。
この前提では、どのパターンでも所得が非課税の目安を超えるため、補足給付は受けられなくなります。軽減がなくなることで増える食費・居住費は、多床室で月約4.1万円、ユニット型個室で月約4.7万円です。
| 家賃 (経費を引いた手残り) | 多床室の場合の差し引き | ユニット型個室の場合の差し引き |
|---|---|---|
| 月5万円 (手残り 約3.8万円) | 約−0.4万円 | 約−1.0万円 |
| 月7万円 (手残り 約5.3万円) | 約+1.2万円 | 約+0.6万円 |
| 月9万円 (手残り 約6.8万円) | 約+2.7万円 | 約+2.1万円 |
※差し引き=手残り−軽減がなくなって増える食費・居住費。軽減の減少額は、2026年8月以降の基準費用額と第3段階①の負担限度額の差を30.4日で月額換算したもの。施設の実際の料金は契約により異なります。住民税や保険料の増加分は含んでいません。
家賃が低めだと、差し引きはマイナスになります。家賃がある程度見込めればプラスになりますが、実際には次の章でお伝えする住民税や保険料の増加もあるため、手元に残る額は表よりさらに小さくなります。
ご注意:ここでの数字は、考え方を知っていただくための一般的な例です。実際の住民税や保険料の額は、所得の内容やお住まいの市区町村によって変わります。具体的な金額は、市区町村の窓口や税理士にご確認ください。
では、どう考えればいい?
差し引きが小さい、あるいはマイナスになるからといって、貸すことが必ずしも間違いとは限りません。お金以外にも、次のような点があるからです。
- 家を手放さずに済む(期間を区切って貸すなら「定期借家」という契約もある)
- 人が住むことで、空き家の管理や劣化の心配が小さくなる
- 固定資産税や管理の費用を、家賃でまかなえることがある
反対に、毎月の施設費用を少しでも抑えることが最優先であれば、補足給付を受け続けられる形のほうが合っている場合もあります。数字を並べたうえで、ご家族が何を大切にしたいかで決めると、納得しやすいでしょう。
「売る」場合とはどう違う?
実家を売却した場合、家賃のような継続的な所得は生まれません。その代わり、売却代金が親御さまの口座に入ると「預貯金等」として数えられます。補足給付には段階ごとに預貯金の上限(単身の場合、第3段階①なら550万円)があるため、これを超えると対象外になります。
つまり、貸すと「所得」の要件に、売ると「預貯金」の要件に影響するという違いがあります。売る・貸す・そのままの基本的な比較は、こちらの記事でまとめています。
見落としやすい3つのこと
- 住民税以外の負担も変わる:住民税が課税になると、介護保険料や後期高齢者医療保険料の段階が上がり、介護サービス費の自己負担の上限(高額介護サービス費)も上がることがあります。
- 影響が出るのは翌年から:補足給付の判定は前年の所得をもとに行われ、認定は原則として毎年8月に切り替わります。貸し始めてすぐには変わらないため、後から「急に負担が増えた」と感じやすい点に注意が必要です。
- 配偶者の状況も判定に入る:ご両親の一方が施設に入り、もう一方が自宅に残る場合などは、配偶者の住民税の課税状況や預貯金も合わせて判定されます。
まとめ:判断は3ステップで
- 親御さまが補足給付の対象か(入居先の種類・住民税の課税状況)を確認する
- 家賃の手残りと、軽減がなくなった場合に増える費用を並べて、差し引きを出す
- 具体的な住民税・保険料の額は、市区町村の窓口で確認する
実家を貸すことは、施設費用を支える方法のひとつです。ただ、補足給付を受けているご家庭では、「家賃が入る=その分楽になる」とは限りません。貸すかどうかを決める前に、一度差し引きで確認してみてください。実家を貸した場合の家賃の目安は、無料シミュレーションで試算できます。
・厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1506(令和8年8月からの特定入所者介護(予防)サービス費の見直し等)」(2026年5月29日)
・千葉県「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果 千葉県版」
※本記事の計算例はすべて仮定にもとづく目安であり、実際の費用・税額は所得の内容、お住まいの市区町村、施設との契約などにより異なります。
最終確認日:2026年10月1日(補足給付の基準費用額・負担限度額・段階の要件)
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